スポーツ現場の応急処置


目次
障害発生のメカニズム
セルフチェック
トレーナーチェック
RICE処置
ケガをしたときの心理状態
キズの種類
創傷処置
止血法
鼻出血
突き指
熱中症
過換気症候群
ショック症状
脳震盪(しんとう)症
熱があるときに


早期の発見・治療を

 スポーツ障害のメカニズムを説明する前に、「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」の言葉の違いを説明しておきましょう。
「スポーツ外傷」・・・明らかな外力によって組織が損傷された状態。スポーツ活動においては衝突、打撃、転倒などがその要因にあげられる。突発的に起こる。
「スポーツ障害」・・・スポーツ活動によって蓄積された疲労や身体への強い刺激が、局所的な組織障害を起こすもの。一過性のものではなく、断続的・可逆的である。
スポーツ障害の主なメカニズムとして次のものがあげらます。
1、オーバーユース(使いすぎ):原因としては過度に継続的にくりかえされるスポーツ動作(例えば投球動作、長距離走)
2、オーバーロード:くりかえしの頻度が少ないがストレスの強い運動(例えば重量挙げなど
スポーツ障害を解消するためには、スポーツ活動の質と量、個人の身体的要因(基礎体力や年齢、性別など)、環境因子(天候や気温、グランド状態など)などを考慮に入れた上で状況に応じたスポーツ活動をおこなう必要があるといえるでしょう。
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まず自分でチェックする

1、ケガをしたときの状態(どういう格好で、どういう状況で、落ちた、転倒した、捻った、打撲したなど)
2、動けるか、動くか、変形しているか、歩けるか、しびれがあるかなど
3、痛みは我慢できる程度か、できないほど強いかなど
4、腫れがあるか
以上の4点について自分でチェックし、医療機関に行くかどうかを判断してください。疑問が残る場合は医療機関への受診をおすすめします。
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適切な応急処置を

どれだけケガを未然に防ぐ努力をしていても、時としてスポーツ活動において傷害は発生します。大切なのは傷害が起きた後の適切な処置です。傷害が発生した場合ドクターやトレーナーはケガの状況を把握し、評価を行い、観察をします。
● プレー続行は可能かどうか。治療が優先される状態であるか。
● 痛む部位、痛みの程度
● ケガをした部位をどの程度動かせられるか
● 体重をかけられるか。全加重(全部体重をかけられる)できるか、半加重か、まったく加重できないか(非加重状態)。
● 腫れ方。すごく腫れているか、内出血しているか。また止血はただちに可能か。
● 選手の意識が消極的になっていないか。
● プレーを続けるにあたって不安感はあるか
これらを瞬時に判断し、競技続行可能か、治療優先かを決定します。
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RICES処置

R・・・Rest
I・・・Icing
C・・・Compression
E・・・Elevation
Suppout・・・支持・固定
の頭文字をとっています。
捻挫、打撲、肉離れと思われるケガ(スポーツ外傷の多く)は正しい処置をすると、痛みと腫れを抑えることができ、より早くスポーツの現場に復帰することが可能です。スポーツの場面では様々な事態が予測されますので、競技や練習のときは氷とバケツに入った水、伸縮包帯、ガーゼ、テーピングなどを用意しましょう。
1、安静。ケガをしたところを無理に動かすとひどくなることがあります。患部を動かさないようにある程度固定し、様子をみることが大切です。
2、氷冷。ケガをしたところを冷やす。このことにより患部の毛細血管が収縮されて出血を抑えることができ、腫れを防ぐことができます。また冷やすことで痛みを軽減する作用が得られるので、筋痙攣のときにも有効です。ケガの受傷後のリハビリテーションやスポーツ活動をした後に腫れてくるときなどにも効果的です。
方法としてはアイスパックや氷、水などを用いて患部を20分〜30分ほど冷やします。皮膚の感覚が冷たい感じ→ヒリヒリする感じ→しびれて感覚がなくなる感じ、と時間の経過と共に変化します。30分以上すると今度は反応性の血管拡張が起こってしまい、腫れが増大するので注意が必要です。その後時間をかけて感覚を取り戻します(長くても約1時間まで)。これを24時間〜48時間繰り返すのが理想です。
ただし、出血がある・アイスアレルギーがある方には布をあてるなど、間接的に冷やしてください。
湿布剤はかぶれをおこし後の治療に支障がありますので使用しないで下さい。
3、圧迫。ケガをしたところに包帯やテープを用いて圧迫することによって内出血を抑えます。圧迫しすぎると神経や太い血管まで影響が及びますので、患部より先がしびれたり、色が変わったりしないかを確認したうえでおこないます。
4、挙上。ケガをしたところを心臓よりも高く上げることで、血液の心臓への戻りを促し、腫れを防ぎます。患部の下に座布団やタオルなどをいれるとより楽に挙上することができます。

ケガの受傷直後にこのようなRICE処置を適切におこなうと、ケガの回復が早くなります。ただし処置はあくまでも救急処置です。医師による最終的な処置や診断を受けるようにしてください。
5、支持・固定
出血時は患部より心臓に近い部位で止血し、重症時は動かさないように添え木など当て固定する。
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ケガをした時の心理状況

否定 → 怒り → 消沈 → 認識 → 積極性
1、否定。文字通り事実を認めていない状況です。選手がケガをすると重大なケガをした選手ほど、こちらからの問いかけに「大丈夫です」と答えます。その大半は「大丈夫」ではありません。選手の判断に惑わされず、事実を把握する必要があります。
2、怒り。動けない、重大なケガであることに気づくと選手はその事実に対して怒りを覚えます。大声で叫んだりします。
3、消沈。いくら大声を出しても、現状は変わりません。その事実がわかるととたんに選手は「どうせ私なんか・・・」と意気消沈します。プレイできないという辛さがあらわれてきます。
4、認識。怒って、意気消沈した後にようやくケガをした事実を認めることになります。
5、積極性。事実を認めることでリハビリテーションに前向きな姿勢を見せるようになります。ケガを直せばまたプレイができるという気持ちが生まれてくるようになります。
最後の積極性の段階にくるまでに選手には様々な心理状態が生まれます。個人個人によってその差はありますが、ケガをした選手を孤立させず、youではなくてweとして一緒に考えていくことが大切です。
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キズの種類・分類

キズは専門的にいうと「創(そう)」と「傷(しょう)」に分けることが出来ます。「創」とは鋭利なもので切ってしまったといった場合の開放性のキズのことであり、「傷」は打撲したときのような切り口のない閉鎖的なキズのことを言います。スポーツ現場で頻繁に起こる「創」はいろんな種類があります
●擦過傷(さっかしょう)・・・皮膚を擦(す)ったときにできる創で、出血やヒリヒリした痛みを伴います。キズが広範囲になることもしばしばで、感染を起こしやすいと考えられています。回復の具合は皮膚へのダメージの範囲によります。また皮膚の下に血腫が出来る場合もあり、そのときは注射で抜くようにします。
●挫創(ざそう)・・・小石などが多くあるグランドでスライディングを行ったときなどに出来る創。皮膚がつぶされて擦られたように挫滅し、キズ口はギザギザである。化膿しやすく治りが遅いことが多い
●切創(せっそう)・・・刃物などで切れたときに出来る創。切り口はシャープで周辺組織へのダメージは少なく、刃物が汚染されていなければ化膿することも少ないと考えられます。ただし創が深い場合には皮下の腱や血管、神経などに損傷を与えている場合があるので注意が必要です。
●割創(かっそう)・・・接触プレーなどで選手同士の頭がぶつかったときなどに起こる創で、皮膚が割れた状態になります。キズ口の周辺組織につぶされた部分がある場合はそこが壊死を起こすので、縫合する場合にはその部分を切除してから行います。
●刺創(しそう)・・・針を踏んだときなどに出来る創。キズ口は小さく出血もほとんどみられない場合もあるが、深部まで達していることが多い。足裏は皮膚が厚いのでキズ口ががすぐに閉じてしまい、嫌気性(けんきせい:酸素を必要としない)の破傷風菌が増殖しやすく危険である。病院での治療の参考となるため、刺したり踏んだりした針や釘は、病院に行く際は持参するとよいでしょう。
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創傷処置−まず消毒から

創傷(そうしょう)とは皮膚組織が損傷されたもののことです。いわゆるすり傷、軽い切り傷などのことをいいます。これに対して、皮下組織全体の損傷のことを挫傷(ざしょう)といいます。これには打撲、捻挫などがあり、適切な処置としてまずRICE処置がおこなわれます。
さて傷ついた場合には、まず傷口部分を清潔に保つ必要があります。損傷した皮膚から病原菌や土砂などの異物が入るのを防ぐためです。細菌による感染は数時間で成立してしまうということもあり、注意が必要です。出血の程度が軽い場合には水道水で傷口をよく洗い、ガーゼやタオルなどで圧迫止血して近くの病院で診てもらいましょう。
ただし傷口に軟膏などを塗ったりするのは逆に傷が治りにくくなり、あまりよくないようです。タオルなどでの強い止血も、逆に静脈をうっ血させて出血が多くなるようですので、このようなことは避けましょう。
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止血法−基本原則と種類

接触プレーの多いスポーツでは創傷(いわゆる擦り傷、切り傷など)を受けることは日常茶飯事であり、その際の止血の適切な処置を素早くおこなうことが大切です。
止血の基本原則:原則としては外傷による外出血に対して、圧迫と出血部位を心臓よりも高い位置にあげることが効果的です。
止血法の種類:
1、「直接圧迫法」・・・出血部位に直接ガーゼや布を当て、その上を手で強く圧迫する方法。
2、「間接圧迫法」・・・出血部位より心臓に近い動脈のある一点(止血点)を手や指で強く圧迫して血の流れを止める方法。この方法は頭部の一部と四肢にしか使用できず、適切な圧迫部位を探すのも困難でありるためあくまでも一時的、応急的なもの。
3、「直接・間接圧迫併用法」・・・直接圧迫法だけでは止血できない場合に、関節圧迫法をあわせて使用する方法。大部分の出血はこの方法で止血できる。4、「止血帯法」・・・止血帯を使って一時的に抹消の血流をとめてしまう方法。ただし止血帯法はスポーツ現場においてはまず用いられることがないと考えてよい。
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鼻出血−上を向かずに圧迫を

スポーツによる鼻への衝撃によって鼻孔(びこう)から出血が生じることがあります。コンタクトスポーツや他の選手と衝突する可能性のあるスポーツ、装具の直接の衝撃を受ける可能性のある選手などに多く見られます。また鼻出血は高血圧症、鼻道の乾燥、頭部挫傷によって生じることもあります。
鼻出血が見られた場合は以下のことを行いましょう。
● 頭を前方に傾けて座る。
● 直接圧を加えるために、指を使って鼻孔をはさむ。
● もし出血が止まらなければ、鼻を冷却する。
出血が止まらなかったり、変形が見られるようであれば医師の診察を受けるようにしましょう。
鼻出血のときに上を向いて首筋をトントンと叩くようなことを行う人もいますが、血液が逆流して気分を悪くすることがありますのでやめたほうがよいでしょう。同じく鼻をかむことは骨折している可能性が否定されていないため行ってはいけません。
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突き指

突き指はいわゆる「指の捻挫」状態であり、関節を保護している指の靭帯が衝撃を受けて伸びたり、場合によっては切れたりする状態のことです。また衝撃がひどい場合には骨折、脱臼なども考えられます。野球、ソフトボール、バレーボールなどでボールを指先に当ててしまった場合に起こります。
受傷直後は患部を動かさないように軽く曲げた状態で固定し、氷、アイスパックなどで冷やします。冷やした指の腫れが2〜3日でひくようなら医療機関にいく必要はないでしょう。
指を引っ張って整復するのは脱臼のときのみであり、靭帯損傷や骨折の場合にはかえって症状を悪化させることになるので注意が必要です。
2〜3日たっても症状が改善されない場合は早急に医療機関を受診するようにしましょう。
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熱中症

スポーツ活動中では、体内から多量の熱を発生するため、それほど高くない気温(20℃前後)でも発生する危険があり注意が必要です。
分類
1、熱けいれん・・・激しい運動をして汗をかいたときにおこるもの。生理食塩水(塩分濃度0.9%の水分を補給して、涼しいところで安静にしていればなおる軽度障害(体温の上昇は通常みられないもの)です。
2、熱疲労・・・発汗があり、体温上昇がわずかではあるがおこる中度障害。脱水と塩分不足が原因で、全身倦怠感、脱力感、めまい、吐き気、嘔吐、頭痛などの症状があらわれ、血圧低下、頻脈(脈の速い状態)、皮膚の蒼白が起こります。涼しい場所に運び、衣服を緩め、安静に寝かせて水分(塩分濃度0.2%程度のもの)を補給すれば、通常は回復するとされています。
3、熱射病・・・体温上昇が高度で発汗がみられず、中枢神経障害を含めた多臓器不全(体内で血液が凝固して、脳、肺、肝臓、腎臓などの全身の臓器の障害)を伴う高度障害状態のこと。異常な体温上昇(40℃前後以上)、意識障害、吐き気、めまい、ショック状態などを示します。
発症現場での迅速な冷却処置が重要となり、発症から20分以内に体温を下げることができれば、確実に命を助けることができるといわれています。
予防法としては、環境条件を把握し、それに応じた運動、水分のみではなく適度な塩分の補給もおこなうということです。また個人で体調が悪い場合や睡眠不足などのときは無理な運動は避けましょう。
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過換気症候群

ケガをしたり記録が伸びなかったりするときに、精神的に不安定な状態になっているスポーツ選手にみられます。特に女子選手に多く発生します。
症状としては発作的に呼吸が浅くなり、頻回になることによって血液中の炭酸ガスが過剰に吐き出されます。筋収縮の異常といった筋肉症状がみられることもあり、めまいを訴え、手足、唇などに軽い痙攣(けいれん)を起こします。これらの症状がさらに不安を増幅させ、過呼吸を繰り返すという悪循環になります。
このような症状があらわれたら、まずゆっくりと呼吸をするように指示します。ビニール袋を口と鼻にかぶせて呼吸を繰り返すと、吐き出した炭酸ガスを再吸入するため次第に呼吸は正常に戻ります。
これらの症状を回避するためには、そのもととなっているストレスや精神的不安を取り除くことがまず大切です。
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ショック症状

ショックとはいろいろな原因・誘因によって急激に全身の循環血液量が減少し、精神的・身体的活動能力が著しく低下した状態をさします。原因としては、次のようなものがあげられます
1、重度の障害で痛みが激しい。
2、複雑骨折、重度の挫傷がある。
3、大量の出血をおこす。
4、恐怖、悲嘆など精神的打撃が大きい。
5、内臓への障害がある。
症状としては、顔面が蒼白で、反応が鈍くなり、指先、唇、耳などは暗紫色への変化が現れます。顔や手に冷や汗が出て体温が下がり、しばしば体の震えや悪寒などが見られます。脈は速くて弱いため、触れることが出来ない状態になります。呼吸が浅くて回数が多く、しかも不規則であり、血圧も下降します。重症の場合は全く意識がなくなり、深く長い呼吸と浅く短い呼吸を繰り返すようになります。
ショック症状が見られる場合は、仰向けに寝かせて脳や心臓に十分な血液が流れるように枕を用いず頭を低くして10〜15度くらい下肢を挙げるようにします。頭部に外傷・障害のある場合は、水平の体位に保つかわずかに頭を高くするようにします。
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脳震盪症

ラグビーのタックルで頭を打って倒れたときや、ボクシングのノック・ダウンを受けた後に見られることがあり、意識障害が一過性にあるものです。通常6時間以内に意識障害は回復するとされています。
頭部損傷の場合はただちに意識確認をおこないます。意識が確認できたら選手に時、場所、状況に関する質問をおこない、返答状態や動作に異常がある場合は直ちにスポーツ活動を中止させます。瞬間的な意識喪失が見られる場合でも軽度の場合は1〜2分以内に意識が戻り、スポーツ活動に復帰しようとします。この際も注意深く選手の状態を観察することが必要です。
意識確認チェック項目
指尖(しせん)・鼻テスト(人差し指を使って左右交互の手で鼻の先に触れるテスト)や前腕の回旋運動(内・外ひねりの運動)、片足「ケンケン」、目を閉じた状態での直立などの検査法をおこなうことも有効です。これらの検査法は脊髄皮質路、脊髄小脳路が正常に働いているかどうかの簡単な判定法になります。
いずれにしても迅速・的確な行動が要求され、少しでも危険と思われる因子が認められた場合は絶対にスポーツ活動を中止させます。そして必ず医療機関を受診するようにします。 Return

熱があるときに

体調が優れず、さらに発熱があるのに練習や試合でプレーをしようとする選手がいます。発熱があることで体は「体調不良」を訴えているのです。しかしそんな中でもやむをえない状況がないとも限らないので、その時にアドバイスできることを考えてみました。まず練習を休む、ということを一番に提案してください。その上で、
● 食欲があるかどうか・・・しっかり栄養を補給することで体調がこれ以上悪くならないようにしましょう。食欲がない場合には食べやすいもの(うどんやおかゆなど消化のいいものなど)を少しでも取るようにします。
● ビタミンCの補給を心がける・・・発熱の時には通常よりもビタミンCの消費量が増えます。ビタミンCを摂取することで発熱によって壊された体内の細胞を修復する働きを促進させるようにしましょう。
● 水分補給・・・発熱で汗をかくだけでなくスポーツをすることでその量は大量に増えます。スポーツドリンクなど飲みやすいものをこまめに取るようにしましょう。
● 休息を十分にとる・・・練習の後は汗を拭いて、着替えを済ませたらしっかり休むようにしましょう。運動することで発熱はさらに上昇している可能性があります。38度くらいまでならあまり解熱剤に頼らず休んで様子をみるようにしましょう。
無理をしながらのプレーは体調を悪化させるだけでなく、集中力の低下からケガを起こしやすい状況にあるといえるでしょう。選手が気兼ねなく体調不良をいえる環境を作り上げていくことも大切です。
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氷川台接骨院(東京都練馬区の治療院)